低品質(≒ユーザーの益にならない)なコンテンツは、検索上不利であり、そもそも読まれない。
このようなインターネット上の環境変化によって、2012年後半頃からコンテンツマーケティングは急激に一般化しました。広告表示やサービスへの誘導を主目的とした旧態的なコンテンツではなく、「ユーザーが接触したくなるコンテンツ」を介して、企業とユーザーがコミュニケーションする。こうしたコンテンツマーケティングに対するニーズの高まりは、同時にオウンドメディアの隆盛を生みました。
2017年現在、多くの企業がオウンドメディアを開設しており、そのうちのいくつかは、もはやマーケティング施策としてのメディア、という枠を越え、純然たるメディアとしてユーザーからの支持を集めています。サイボウズ株式会社の運営する『サイボウズ式』、株式会社アイデムの運営する『ジモコロ』などはその好例でしょう。
しかし、人気メディアに成長するオウンドメディアが存在する一方、残念ながらあまり読まれないオウンドメディアがあることも事実です。オウンドメディア、純メディア、さらにSNSやブログなど、無数の発信活動が入り乱れるインターネット上で、ユーザーに「読まれるメディア」を作るのは、そう簡単ではないからです。
弊社はてなでも、さまざまな企業様のオウンドメディアの運営をサポートしていますが、幸いにもクライアント企業様、そしてユーザーから好評を得ているメディアとして成長しています。
申し遅れましたが、はてな編集部の初瀬川と申します。はてなの編集者の仕事はさまざまですが、私のメインワークは、クライアント様のオウンドメディアの運営をお手伝いすることです。本稿では、「読まれるオウンドメディア」を作るために、実際に企画を考え記事を作っているはてなの編集者たちが考えていることをお伝えします。
全ての起点となるのは、グッツグツな熱い企画
「読まれるオウンドメディア」を作るためには、多岐にわたる戦略設計が要求されますが、それらの戦略は大きく2つに分類できます。ひとつは「どのようにしてコンテンツをユーザーに届けるか」というディストリビューション設計戦略。そしてもうひとつが「そもそも、どのようなコンテンツを作るか」というコンテンツ設計戦略です。
両戦略ともに死活的に重要なものではありますが、最重要視すべきは後者のコンテンツの企画です。それはなぜか。言うまでもありませんが、いまいちな企画をどんなに頑張ってディストリビューションしてもユーザーに見てもらえず、結局無意味なものになってしまうからです。企画とディストリビューションは一体化している部分が大きく、分離して考えることは難しいかもしれません。それでも、原則的には、まずは「いい企画」を考え、それを「どう届けるか」という順番で考えるべきでしょう。
と、ここまでのトピックスは、すでにオウンドメディアを運営していらっしゃる方であれば、ほぼ既知の事柄でしょう。おそらく、多くの方が気になるのはその先、つまり「簡単に言うけど、“いい企画”って何だよ?」という部分のはずです。
残念ながらこの問いに対して、絶対的な解は存在しません。オウンドメディアを運営する目的、ゴール、そしてどんなユーザーを対象とするかによって、“いい企画”の形質はまったく異なるからです。料理に興味のあるユーザーに対して、どんなにいい企画であったとしてもプログラミングの記事を提供するのは意味がないのです。
しかし、多様なジャンルのメディアを運営する中で、読まれる記事にはある共通点があるという仮説を持つにいたりました。その共通点とは「熱量」です。
過日弊社が開催した「はてなオウンドメディアマーケティングセミナー」には、有限会社ノオトの代表取締役・宮脇淳氏、『ジモコロ』編集長の徳谷柿次郎氏にご登場頂きましたが、両者ともにオウンドメディアの運営、企画には熱量が不可欠だと述懐しています。
セミナーのレポートはこちら。
「いい企画の共通項は熱量? ふざけるな。そろそろ具体的な話しをしろ」というブーイングがディスプレイ越しに聞こえてきそうです。もちろん、熱量にも具体的な定義や指標があるわけではありません。しかし、ここからは企画を“いい企画”たらしめる熱量なるものを分解し、私見をお伝えしてみたいと思います。
企画に熱量を宿す要素
企画の性能や本質は、企画のタイトルにアイコンとして表出します。そこで、熱量のある企画について考える前に、企画タイトル例をひとつご覧いただきましょう。
家飲みの季節にオススメしたい!おいしい3つのおつまみレシピ
このタイトルがディスプレイに表れ、果たして読んでみたいと感じるでしょうか。おそらく、多くの方にとって答えは否でしょう。では、なぜこの企画を読みたいと思わなかったのか。この企画に“足りないもの”を考えると、熱量の正体がぼんやりと見えてきそうです。
誰が触れるべき企画なのか
まず、例示1の問題点として、企画を届けるべきターゲットが非常に曖昧であることが挙げられます。読むべきなのは、家飲み好きなのか、料理好きなのか、男性なのか、女性なのか。そしてどんなお酒にオススメできるレシピなのか。ビールとワインではオススメするおつまみは微妙に変わってくるはずです。
つまり、例示1は読者に対して企画のセグメンテーションを提示できていない状態なのです。このセグメンテーションとは、「企画が持つ一般性の程度」とも言えるかもしれません。適度にセグメンテーションを絞ることによって、読者も「あ、この企画は自分にとって有益なものだ」と判断しやすくなるのです。この点を加味し、少し例示をチューニングしてみます。
家飲みの季節だから作りたい!ビールにぴったりな3つのおつまみレシピ
例示1では漠然としていたターゲットを、「ビール好き」へと明確にしてみました。同時に、「家飲みの季節にオススメしたい!」を「家飲みの季節だから作りたい!」にすることによって、ユーザーの行動をより喚起するよう強調しています。このように企画の一般性を提示することで、「この企画はあなたのためのものです!」と特定のユーザーを指差し、入り口を提示する機能が備わるのです。
どのくらい、深い企画なのか
しかし、例示2でもまだ“いい企画”とは呼べません。なぜなら、この状態では企画の深度が見えてこないからです。ここでいう深度とは、「企画で取り扱う情報の性質と量」と言い換えてもいいでしょう。そしてこの深度こそ、熱量に大きな影響を与える要素であると僕は考えています。
熱量のある企画とは、ユーザーにどのような変容を喚起するのでしょうか。「分かるわー」という共感。ときには「それは違う!」という反感。「へー、知らなかった。こんな世界があるんだ!」という驚き。「バカじゃねーの(笑)」という笑い、面白み。変容の種類こそ違えど、こうしたなんらかの感情の動き、つまり感動を作り出すことこそ、企画の使命であり、熱量なくして感動はないのです。
皆さんがこれまでに触れた企画の中で、「これは良かった」と感動したものを思い返してみてください。おそらくそれらの企画には、例外なく「自分にとって未知の情報」が含まれていたはずです。この未知っぷりが感動を作り出す原資となり、未知っぷりを獲得するために熱量が必要なのです。
では、熱量の代替指標たる深度とは。続いて、深度を“少し”考慮した、例示3をご覧いただきましょう。
家飲みの季節だから作りたい!ビールにぴったりな3つの揚げ物おつまみレシピ
この状態からは、企画内で取り上げられている情報が、「揚げ物」であるという、情報の性質が取得できるようになりました。ビールが好きで、かつ揚げ物が好きな方なら、少し読んでみようかという気持ちになってくれるかもしれません。が、これでもまだ訴求は弱く、熱量を感じるほどではないでしょう。なぜか。この企画からは情報の性質は感じるものの、「たぶん、鶏の唐揚げとかのレシピだろうな」と予想ができてしまい、「未知」が含まれているかを判断できないからです。
「未知」はどこにある?
では、肝心要の未知要素ですが、これを獲得するためにはどうしたらいいのでしょうか。インターネットの力によって、人が知り得る情報は拡大しました。スマホを眺めるだけで、「あ、これ、なんとなく聞いたことがある」というレベルで「未知」は消費され、鮮度の高い情報発信は難しくなってきています。このような時代状況のなかで、企画に未知を宿すためにはヒト・モノ・コトの内部に潜む固有の情報を開示する他ありません。
ここでは分かりやすく、ヒトの力を活用した未知の抽出法を考えてみます。すぐに考えつくのは、専門家の知見による未知要素の獲得です。例示4をご覧ください。
家飲みの季節に!揚げ物料理研究家が教えるビールにぴったりな3つのおつまみレシピ
かなり“それっぽく”なってきた印象です。「揚げ物料理研究家」が加わることによって、「きっと鶏の唐揚げとかが紹介されているんだろうけれど、自分の知らない調理法とか味付けが紹介されていそう」という未知が感じられます。専門家の知見とは未知の宝庫です。専門家となんらかの情報発信者とのマッチングサービスが隆盛してることもうなずけます。
しかし、さらに企画に未知を搭載したい。もっと極端な未知を作り出すのであれば、食とは異なる世界の専門家を、おつまみという文脈に加える方法もあるでしょう。例えば、「旅人」です。例示5をご覧ください。
世界50カ国の酒場を巡って見えた!これがビールにぴったりなグローバルおつまみレシピ3つ
ここまでくれば、「家飲みの季節に!」という煽りも、もはや不要でしょう。登場するのは謎の野菜かワニの肉か、企画内でどんなものを取り扱っているのか予想がつかなくなってきます。つまり、この企画はかなりの確率で、(美味しいかどうかは別として)ユーザーに対して未知を提供できると考えられます。
ヒトの内部にある情報の力を借りることで、企画に未知を落とし込み、ユーザーの心を動かす熱量を企画に宿していきます。本稿では詳しくは触れませんが、何らかの製品(モノ)や、イベント・事件(コト)も、未知を作り出すために応用可能です。
企画に搭載できる熱量と、その源泉を考える
さて、ここまで(一部に過ぎませんが)熱量の正体なるものを考えてきましたが、僕の場合、企画を考案する際は一般性を横軸に、深度を縦軸にした円柱のようなもの(下左図)をイメージします。
円柱の容積が、企画が搭載できる熱量≒どのくらいのユーザーに感動を与えられるか、の想定指標です。理想は限りなく広い一般性を持ちつつも深度もある、という状態(下右図)です。
が、これを実現するにはかなりの困難(意図的に作り出すのはほぼ不可能)が伴います。そこで、一般性の幅と深度を調整することで、「これなら読んでもらえる!」という臨界点まで達するようにチューニングしていきます。前章の例示を順に円柱化すると以下のようなイメージになります。
しかし、例示1から5に進むにつれて、同時に企画の作成難易度が上がっていくことは言うまでもありません。特に、最も熱量を搭載できる例示5を目指す場合、最適な人材が都合よく見つかる可能性は非常に低いと言わざるを得ません。
だからこそ、はてなの編集者たちは、はてなブロガーの皆さんから「未知の源泉」を探すのです。はてなブログというコミュニティーには、ある特定のジャンルを突き詰める、とんでもない情熱を持った方たちがたくさんいるからです。こうした方たちの深い知見や洞察と、特定の企画の出会いを作り、そしてコンテンツマーケティングの文脈と自然に馴染むよう、編集する。こうしたプロセスを経て、深度、すなわち熱量のある企画を具体化しているのです。弊社が運営をお手伝いしているオウンドメディアをご覧になれば、多くのはてなブロガーの方が活躍していることがお分かりになるでしょう。下記はその一例です。
読まれる、生き残るオウンドメディア
繰り返しになりますが、多数のオウンドメディアがしのぎを削る現在、読まれるメディアを作るのは簡単ではありません。しかし、熱量のあるメディアが支持を獲得し、以降も愛されるメディアとして生き残っていくことに僕は半ば確信を持っています。
今回、ほんの一側面に過ぎませんが、メディアと企画が持つべき熱量の有り様をお伝えしたことが、皆さんの“いいオウンドメディア”運営の一助になれば幸いです。
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