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SmartHR Mag.が担う事業貢献とは? 編集力でさまざまな成果を生み出す取り組みを聞いた

SmartHR

継続的な企業オウンドメディアの運用を続けている担当者に聞くシリーズコンテンツ「持続可能なオウンドメディア運営のヒント」。今回はクラウド人事労務ソフトを提供する株式会社SmartHRが2016年に立ち上げたオウンドメディア「SmartHR Mag.」の運用を担当する廣嶋祐治(ひろしま ゆうじ)さん、向晴香(むかい はるか)さんにお話を伺いました。

オウンドメディアは適切な運用を行うことでリード獲得やエンゲージメントの強化、採用などさまざまなメリットが期待できる一方で、一定の成果が出るようになるには中長期的な運用が必要*1とされています。

ここで重要なのは、オウンドメディアを単なる情報発信の場ではなく「オウンドメディアでどう事業に貢献するか」を踏まえた戦略設計・運用ができているか。ここが考えられていると、社内でもオウンドメディアの価値や存在意義に対する共通認識が生まれ、持続的なメディア運用にもつながるはずです。

SmartHR Mag.では、まさに「オウンドメディアでどう事業に貢献するか」を念頭に置いた運用が行われているようです。

\オウンドメディアの立ち上げを検討している方に/

「編集力で事業貢献する」SmartHRのコンテンツマーケティング部

「SmartHR Mag.」編集長 廣嶋祐治さん

ーーまずはお二人の担当業務について教えていただけないでしょうか。

廣嶋 私と向はSmartHRの「コンテンツマーケティング部」に所属しているのですが、コンテンツを手段として、SmartHRの事業成果に貢献するための部署になります。

細かい業務内容や範囲はメンバーによっても異なりますが、大きくは

  • オウンドメディア「SmartHR Mag.」の運営
  • ホワイトペーパーの企画・制作
  • SmartHRを導入しているユーザーコンテンツ(事例など)作成

の3領域があります。どの領域においても顧客の課題やニーズのヒアリングを踏まえて企画・制作し、コンテンツの成果分析、改善策の検討・実行までPDCAを回しながら一気通貫で運用しています。

その中で、私は2024年7月からSmartHR Mag.の5代目編集長に就任しました。編集長就任以前からSmartHR Mag.のコンテンツ企画制作に携わっていましたが、現在はそれに加えて、オウンドメディアのグロース戦略や社内のさまざまな事業部との連携などを中心に行っています。

向 私は2023年9月にSmartHRにジョインし、SmartHR Mag.に掲載するコンテンツの企画・構成、コンテンツSEOの方針策定や制作進行管理などを行っています。

他にも先ほど廣嶋が挙げた通り、他部署と連携して、顧客のニーズや課題に沿ったホワイトペーパーやユーザーコンテンツの企画・制作にも関わっています。

ブランディング統括本部 コンテンツマーケティング部 向 晴香さん

ーー先ほどコンテンツマーケティング部についての説明がありましたが、貴社の戦略上、どのような役割を担っているのかもう少し詳しくお聞きしたいです。

廣嶋 コンテンツマーケティング部は「コンテンツを通じて顧客にとってよりよいサービス体験を実現し、事業成果に貢献する」という役割を持ち、「編集力で事業貢献する」というミッションを掲げています。

そのため、SmartHR Mag.で発信するコンテンツについても「このコンテンツが誰の役に立つのか、どんな事業貢献につながるのか?」という問いはチームメンバー全員が意識的に行っています。

向 「オウンドメディアを運用すること」が目的ではないため、届けたい顧客のニーズや課題、達成したい成果や狙いによっては、「オウンドメディアの記事コンテンツじゃなくていいよね」という判断をすることもあります。

すり合わせをした結果「ユーザーに納得して次のフェーズに進んでもらうために、こういったテーマのホワイトペーパーが必要だ」「導入事例集を用意しよう」といったこともありますね。

プロダクトの成長と共に変化するオウンドメディアのコンテンツ

ーーSmartHR Mag.は2016年にスタートしています。開設当初の設立背景や目的としては、どういったものがありましたか?

廣嶋 当時はまだSmartHRというサービス自体の認知度が高いとは言えない状態でした。そのため、直接的なコンバージョンを狙うよりも、まずは労務管理という当社のサービス領域に関心を持つ層を中心に「SmartHR」という存在を知ってもらうため、労務領域のお役立ち情報を提供するメディアとして立ち上がりました。

当初は「ホットな人事労務マガジン」というタグラインで、人事労務担当者の方、とりわけ毎日の労務管理業務で直面する悩みに寄り添うようなコンテンツを中心に展開していました。

ーー年月が経つにつれ、オウンドメディアが担う役割も変化していくかと思います。2023年のフルリニューアルにはそうした課題感のようなものがあったのでしょうか。

廣嶋 まず前提として、オウンドメディア立ち上げ当初の「お役立ち情報の発信」というコンセプトは継続しています。そのなかで、SmartHRというプロダクト自体「できること」の幅が広がってきたというのがあります。

「労務手続き全般を効率化したい」「DX・ペーパーレス化を実現したい」といったいわゆる「労務管理の課題」を解決する機能がメインだったフェーズから、タレントマネジメント領域の機能も追加されたり、SmartHRの複数の機能を活用することで経営課題解決のサポートが期待できたりするようになっていきました。

そのため労務管理に絞ったコンテンツだけではなく、例えば人材育成や人的資本経営、人事評価といったテーマも取り扱う必要があるのでは、という課題感が浮かび上がってきたんです。

ーープロダクトの成長に合わせて、オウンドメディアでリーチすべき層も変化していく必要があったということですね。

廣嶋 はい。リニューアル後は「働く明日が、もっとよくなる」というタグラインに変更し、これまでよりも広い領域のコンテンツを取り扱うようになりました。

SmartHR Mag.

各部門との連携を促進し課題発見につなげる「大臣」制度

ーーBtoBオウンドメディアの場合「リード獲得」という意識を強く持たれるケースも少なくないと感じます。SmartHR Mag.のコンテンツが果たす役割としてはどのように考えられているのでしょうか。

向 大きく3つの役割に分けてコンテンツを発信し、それぞれ成果を評価するようにしています。

まずは、SmartHRのプロダクトと親和性の高いニーズや課題を抱える方との接点づくりを目的としたコンテンツです。

いわゆるSEO記事が中心となっていますが「人事・労務領域に関する情報を知りたい方が読んで役立つような記事構成になっているか」という点は意識して制作しています。まずSmartHR Mag.に来訪していただく方を増やし、そこからSmartHRのサービスや機能について関心を持っていただくような流れを生み出すためにも、こうしたコンテンツは欠かせません。

次に人事・労務領域のトレンドや最新情報の解説、有識者へのインタビューなど人事領域の最前線を発信するコンテンツです。確かな情報の発信によって、SmartHR Mag.への信頼感を高めることを目指しています。最近はタレントマネジメント機能の拡大に伴い、人材開発や人的資本経営などに関連したコンテンツも拡充しています。

最後に、SmartHRのサービスに関心を持ち始めている人やすでにSmartHRのサービスを導入いただいているお客様向けのコンテンツです。SmartHRのプロダクトにより興味を持っていただくため、お客様の活用ストーリーやイベントレポート、SmartHRの機能紹介などを展開しています。

また、各コンテンツに関連したホワイトペーパーをCTAとして設置するようにして、リード獲得につなげるようにもしています。ただ、大事なのはあくまで「記事を読んだユーザーの方に役立つ情報を提供する」ということ。そのため、ダウンロードしてもらうこと自体ではなく、情報の質を最優先するよう意識しています。

テンプレートギャラリー
いかに“優秀人材”を育てるのか。ハイパフォーマー分析の実践と活用」の記事末にも内容にフィットしたお役立ち資料のダウンロードリンクがあり、記事を読んだ上でより詳しい情報が気になった際に資料をダウンロードできるようになっているほか、サイドバーなどでメールマガジンへの登録リンクが設置されている

廣嶋 オウンドメディアを通じたコンバージョンも重要なのですが、それ以上にユーザーが役に立つと感じるようなコンテンツであるか、を最も大切にしていますね。

特にターゲットごとの情報の深さやトンマナを細かく調整しています。この結果、読者との関係性が深まり、記事を通じてユーザーの課題解決につながったという声をいただくことも増えました。例えば、「法改正対応の進め方」という記事を読んだ読者から「社内での実務にそのまま活用できた」というフィードバックをいただいたこともあり、私たちにとっても非常に励みになります。

ーー現在、SmartHR Mag.のターゲットはどのような層を設定されているのでしょうか。

向 当初からのターゲットである「労務領域の関心層」に加え、「採用・育成などの人事領域の関心層」、経営陣などを想定した「決裁者層」など幅広く想定しており、コンテンツごとに「こういった方に届けたい」を設定しています。

ーーSmartHR Mag.のKPIは何を設定されているのでしょうか?

向 一般的なPVやUUだけでなく、コンテンツの目的に応じて設定しています。サービスへの関心を持ってもらうのを目的としているのであればCTAのクリック数や問い合わせ数など、コンテンツの狙いによって見るべき指標は変わります。

その上で、SmartHR Mag.では「媒体自体の価値を感じていただいて、ファンになってくれている状態」を目指しており、それを指標化した結果、メールマガジンの登録者数に現在注力しています。

ーーオウンドメディア上で発信するコンテンツは、どのようにテーマを決めていっていますか? 長期運用が続くと「ネタ切れ」に悩むオウンドメディア担当者も少なくありませんが、継続的に魅力的なコンテンツを発信するために実施している工夫があれば伺いたいです。

廣嶋 実は、我々の場合「ネタ切れ」になったことがないんです。先ほど申し上げた通り、我々のプロダクト自体が加速度的に成長を続けているというので、そこにフィットするコンテンツを作っていこうとすると、周辺情報も含めて取り上げるべきテーマは無限にあるな、というのが現状です。

向 それと、オウンドメディアのコンテンツ発信をするにあたって各部署との連携は欠かせないかと思いますが、コンテンツマーケティング部では「大臣」という制度を採用し、連携をとるようにしています。大臣は各事業部門や関係部署に課題のヒアリングを行い、それを元にコンテンツを企画化するケースも多いです。

お客様からの課題やニーズを常にキャッチアップできる体制が整っているため、自然と「次はこのテーマのコンテンツをやったほうがいいね」といった流れができているように思います。

「オウンドメディアに閉じない」ことが持続可能な運営にもつながる

ーー一般的にオウンドメディア運用の効果は短期ではなく中長期的な視点が必要とされていますが、オウンドメディアを運用する企業が抱く悩みとして、経営層から費用対効果(ROI)を指摘され、志半ばで運用を断念せざるを得なくなった……という声をよく聞きます。こうした事態に陥らないためにSmartHR Mag.として意識されていることはありますか。

廣嶋 オウンドメディアがもたらす価値は運用目的によって異なると思いますが、SmartHR Mag.の場合は先程も申し上げた通りコンテンツによって目的が変わるため、コンテンツ毎に期待する役割に対しどんな成果があったのかだったり、ユーザーからの反響をチーム内で共有したりして、次の戦略に活かしています。チーム内での振り返り会はもちろん、経営層にもオウンドメディアの成果や意義を定期的に報告するようにしています。

そのため、経営層の理解も深く、オウンドメディアをはじめとしたコンテンツマーケティング施策に対して期待を持ってくれています。

その上でSmartHR Mag.が提供する価値をチーム内で定期的に確認し、「なぜこのオウンドメディアが必要なのか」はチーム全体で常に意識していますね。

オウンドメディアがもたらす価値は運用目的によって異なると思いますが、SmartHR Mag.の場合は先程も申し上げた通りコンテンツによって目的が変わるため、コンテンツ毎に期待する役割に対しどんな成果があったのかだったり、ユーザーからの反響をチーム内で共有したりして、次の戦略に活かしています。チーム内での振り返り会はもちろん、経営層にもオウンドメディアの成果や意義を定期的に報告するようにしています。

 社内へのアプローチとしては、各事業部にお客様との関係構築のためのコミュニケーションにSmartHR Mag.を活用いただけるよう、コンテンツの案内を積極的に行うようにしています。これは、先程お伝えした通り「大臣」活動において重要な取り組みの一つになっています。

廣嶋 あと、存在意義を示すという意味では、SmartHR Mag.の取り組み自体を評価していただけるような外部のコンテスト等に参加するようにしています。

「コンテンツマーケティング・グランプリ2022」ではおかげさまでオーディエンスビルディング部門でグランプリを受賞しているのですが、こういった社外からの「わかりやすい評価」というのは一つ有効かもしれません。

ーーオウンドメディアの価値を高め、社内外にもその存在意義を感じられることで、オウンドメディアの運用は継続につながるものと感じます。SmartHR Mag.が長らく継続してこられてきた要因を伺いたいです。

向 短期的なマーケティング活動への貢献と中長期的なブランディングへの貢献の両方を追求してきたことや、それらを念頭に置いて「ゴールから逆算してコンテンツを考える」意識を醸成できているのが大きいと思います。

廣嶋 本来「解決したい課題」に対して「どんなコンテンツが解決策になるか」というのを踏まえてコンテンツのテーマであったり、アウトプットの形式を決めたりすることが大事だと思います。

ーーミッションとして掲げられている「編集力」も、単なるコンテンツの企画や制作だけでなく広く「コンテンツ(情報)をどんな手法で、どうアウトプットするかという戦略までを考えて組み合わせ、編んでいく力」と捉えるととてもしっくりきます。

廣嶋 そうですね。誰に向けてどの情報を、どのような手法で届け、どんなユーザー行動を期待するのかというのは念頭に置くようにしていますね。最近では新しいアウトプットの仕方としてpodcastでの配信も行っています。


「働く」を考えるラジオ by SmartHR Mag.

それと、オウンドメディアでは、記事やコンテンツ作成に注力しがちですが、それだけで終わらせるのはもったいないと考えています。企画段階でコンテンツの「届け方」を意識し、さまざまな手法でアウトプットしていくことが重要だと思います。このような取り組みを、私たちは「二毛作」と呼び、一つの企画を多角的に活用しています。

例えば、SmartHR Mag.で公開した記事をもとにホワイトペーパーを作成したり、メールマガジンで配信したりします。また、2024年10月から定期的に開催しているオウンドメディア主催のオンラインイベントもコンテンツマーケティングの一環として実施しています。

実際、2024年10月に「年末調整」をテーマにしたオンラインイベントを開催しましたが、このテーマはもともとSmartHR Mag.の記事として公開した内容をベースにしています。記事をホワイトペーパーやイベントの形に展開することで、一つのコンテンツを最大限に活用する仕組みが作れると、オウンドメディアの価値もより高まるのではないでしょうか。

ーー確かにコンテンツが資産化され、再活用ができるのはオウンドメディアに取り組む大きなメリットの一つと言われていますが、つい抜けがちな視点でもあります。

向 ついオウンドメディアの記事制作に閉じてしまいがちになっている場合は、まず「オウンドメディアに閉じない」ことと合わせて、「そのコンテンツを発信することで、どんな成果が期待できるのか」を企画段階から考え運用していくことが大切なのかもしれません。


撮影:関口佳代

※記事中の情報は取材時点(2024年11月)のものになります


 

***

SmartHR Mag.の取り組みからは、オウンドメディア運営における重要なヒントが数多く見られました。

コンテンツの再活用などの考え方は、実は見落としてしまいがちですが、コンテンツマーケティングを実践する上でも非常に重要かつ、多くのオウンドメディアで参考となりそうです。

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「はてなビジネスブログ」を運営する株式会社はてなでは、企業のオウンドメディア支援を行っています。「オウンドメディアの作り方ハンドブック」では、オウンドメディアの立ち上げや見直しに役立つハンドブックをダウンロードいただけます。計画から実際の運用まで、各フェーズごとに必要になるタスクを網羅的にまとめており、新規立ち上げだけでなく既存メディアの運用見直しにもご活用いただけます。

*1:Content Marketing Instituteの創始者、Joe Pulizzi氏は成果を実感できる目安として18ヶ月以上、さらにグロースさせるには24ヶ月以上の継続的な運用を推奨している(参照:https://contentmarketinginstitute.com/articles/success-long-term-content-model/

はてなビジネスブログ編集部 オウンドメディア、ネイティブ広告、コンテンツマーケティングに関する話題をお届けしています。

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