2015年10月20日に、はてな東京オフィスで「オウンドメディアにおける編集長スキルとは? はてなオウンドメディアマーケティングセミナー」を開催しました。
登壇したのは、オウンドメディアの運営に携わる5名。現場で求められる編集のスキルや心構えについて話していただきました。その様子をピックアップして紹介します。
【第一部】楽天×はてな「それ どこで買ったの?」編集の現場
第一部では、楽天の山野明登氏と越井大志氏、モデレーターとしてサイボウズの藤村能光氏、そして、楽天の外部パートナーとしてオウンドメディアの運営に携わるはてなから岑康貴が登壇。山野氏、越井氏を中心に、楽天のオウンドメディア「それ どこで買ったの?」の立ち上げから運営について話していただきました。
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楽天に興味のない人に向けたコンテンツを作りたい
左から山野明登氏(楽天)、越井大志氏(楽天)、岑康貴(はてな)、藤村能光氏(サイボウズ)
楽天のオウンドメディア「それ どこで買ったの?(以下、それどこ)」は、2015年4月にスタートしました。「はてなブログMedia」の仕組みを利用して構築されており、コンテンツの制作は楽天とはてなで行っています。オウンドメディアを立ち上げるにあたり「楽天に興味のない人に向けたコンテンツを作りたい」という思いが楽天社内にあったそうです。
楽天市場といえばクーポンの配布や時間限定のSALEなど、既存のユーザーに働きかける方法は豊富にあります。しかし一方で、楽天に興味がない未開拓の層にアプローチする手段を持っていないことが課題として浮き彫りになっていました。この状況を解決するべく、楽天とはてなが協力し「それどこ」が誕生しました。
書き手の表現の自由を尊重して面白いコンテンツを
それどこでは、はてなブロガーを中心にバラエティ豊かな寄稿記事がそろいます。ブロガーとのやりとりをはてなが担い、楽天の編集方針に沿って制作しています。
編集していく上で大切にしていることは「楽天の色を必要以上に出さないようにする」ということ。楽天というブランドに興味がない、もしくは好きではないユーザーにアプローチしたいため、楽天らしさを無理に出さないようにしています。また、書き手本人が楽しまなければ面白いコンテンツはできないという考えから「書き手の表現の自由を最大限に尊重する」ことを編集方針に掲げています。
外部パートナーとして楽天と一緒にオウンドメディアを作る意義について、岑(はてな)は「はてなは“橋渡し”のような存在」だと言います。企業側のマーケティングに協力すると同時に、はてなブロガーに活躍の場を提供していきたいと話しました。
月間訪問者数をKPIに設定
越井氏(楽天)
話はKPI(重要業績評価指標)に移ります。オウンドメディアは即時的な売上を生むわけではないため、来場者の事前アンケートでも「KPIをどのように設定したらいいか?」という質問が多く寄せられました。
「それどこに来訪した人は長期的にみると楽天市場での購入頻度が上がる」という分析結果が得られたことから、それどこでは1UU(ユニークユーザー)あたりの流通額を試算することで、定量的に媒体を評価できるようにしています。そのため、月間訪問者数(月間UU)をKPIに設定し、効果を計測しています。
立ち上げから約半年。月間訪問者数が増加するにつれて、楽天社内からも高い注目を集めるメディアへ成長を遂げています。勢いを増すそれどこに、楽天の三木谷浩史社長から「interesting!」と称賛されるエピソードもあったようです。
【第二部】コンテンツ制作の現場からみる編集長に必要なスキルとは
第二部では地元と仕事をテーマにしたイーアイデムのオウンドメディア「ジモコロ」の編集長を務める徳谷柿次郎氏が登壇。日々の編集長業務や編集長に必要なスキルについて話していただきました。
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徳谷柿次郎氏(バーグハンバーグバーグ)
「ジモコロ」の編集長業務では、全体の進行管理はもちろんのこと、企画立案、取材先のアポ取りや宿の手配、執筆、記事の告知……と、全ての工程を自分で行うとのこと。記事の執筆については「本来なら編集長は書かないほうがいいが、取材した本人のテンションで書かなければ面白くならない」と、取材時に受けた感覚を大切にする編集方針を紹介しました。
また、柿次郎氏が考える編集長に必要なスキルとして「好奇心・取材力・構成力」の3つを提示。取材力では、インタビューを受ける人の言葉を多く拾えるように、聞き手の一方的な価値観で質問を投げかけない姿勢が重要だと述べました。
さらに「隣の編集長」と題して、柿次郎氏と交流のある「THE BAKE MAGAZINE」編集長の塩谷舞氏、元「LIGブログ」編集長の朽木誠一郎氏、「オモコロ」編集長の原宿氏の3名が考える編集長に必要なスキルを披露。塩谷氏の回答から、日々の業務をルーチン化する思考が働くと新しいものが生まれにくくなるため、常にローテーションを嫌がる「アンチローテーション」という考え方を紹介しました。
【第三部】パネルディスカッション・質疑応答
最後はあらかじめ来場者から募った質問について、登壇者全員でパネルディスカッションを行いました。ライターの人材発掘や育成の方法、そして社内との折衝など、オウンドメディアの現場に直結する質問が多く寄せられました。
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左から越井氏(楽天)、山野氏(楽天)、藤村氏(サイボウズ)、柿次郎氏(バーグハンバーグバーグ)、岑(はてな)
__現在ご自身が担当されているオウンドメディアにおいて「こんな人と一緒に仕事をしたい」「こういう人が編集長なら一緒に頑張ることができる」という“理想の人材像”があれば教えてください。
柿次郎氏(バーグハンバーグバーグ) :もちろん自分の分身がいれば理想だと思うのですが、今の科学では難しいので(笑)……「自分の熱量と近い人」がいいですね。ジモコロでは先ほど言ったように、全国に飛び回るような好奇心やモチベーションが必要です。なので、好きなものが多いとか、好きなものについて強く語れるとか、いろんな人間を巻き込める力がある人っていうのは少人数体制のオウンドメディアではすごく重要なんじゃないかと。要は社内に人間が少なくても外部にパートナーとか仲間を増やせば情報も入ってきますし、そこが一次情報になれば他のメディアとの差別化もできて、結果的にPVなどの数字も付いてくると思います。
山野氏(楽天) :おそらく一般的に編集長といえば「コンテンツをプランニングできる人」というイメージを持たれることが多いかと思います。しかし、それどこの場合は、どちらかというと運用するにあたり深く深く分析して、自分たちがやっていることにどんな価値があるかを数字で表現してくれる「アナリスト的な人」がほしいですね。
岑(はてな) :私たちはいろいろな会社のオウンドメディアに協力させていただきながら、同時にはてなのブロガーさんと一緒に多様なコンテンツを作っていきたいと思っています。なので、とにかく「インターネットとコンテンツとメディアが大好きであること」が第一です。その上で「自分たちのユーザーであるブロガーさんを大切に思いながら企業のマーケティングもお手伝いする」というように、脳みそのスイッチを切り替えながらモノを作っていける編集者やマーケティングの方がいいなと思っています。
藤村氏(サイボウズ) :サイボウズに関しては「編集」と呼ばれるスキルや能力を拡大して使ってくれる人がいいなと思います。今私のいる部署はもともと企業の広報を担当していたのですが、「サイボウズ式」を運営して思ったのは「自分の会社をどのように見ると面白いのかを、編集の視点で見ることが重要」じゃないかと。
社内に目を転じると、いろんな面白いことやエピソードが落ちています。ただ、それをそのまま伝えてしまうと誰にも伝わらなくて、結局コンテンツとして出しても無駄に終わってしまいます。そこで、編集的なスキルをもって集めて編む。例えば、情報に価値を与えるとか、先ほど柿次郎さんがおっしゃっていた温度感を与えるとか。そういったところを通じて第三者に伝わるものを作り上げていくことができると、伝えることを仕事にする広報などにも生かせると考えています。
「編集」をコンテンツに対してだけ適用できる人ではなくて、もっともっと拡大して自社メディアやサービスにつないでいける人がいいなと思います。
__編集スキルのある人材を採用するにはどうすればいいですか? また、どのように人材育成に取り組まれていますか?
柿次郎氏(バーグハンバーグバーグ) :ジモコロを含めオモコロには個性的なライターがいますが、そういう人って誰かに見つかる前にブログなどで自己表現しているんですよね。なので、そういった才能のある人たちを見つけて声をかけることが大事じゃないかなと。また、年に1回「オモコロ杯」で記事を募って上位になった人をスカウトすることも。この作業は10年のノウハウがあるオモコロ編集部が担っています。
人材育成については、やはりコミュニケーション重視ですね。どれだけ時間をかけられるのか。その上でライターの価値=対価をきちんと支払うことも大事だと思っています。まず「あなたのことを素晴らしいと思っているので、この金額でどうですか?」とモチベーションを作って、そこからライターさんと1対1で2~3時間、話をします。どういう記事を書きたいか、何が得意なのかをヒアリングしてから取材同行するんですが、取材先でめちゃくちゃ会話が増えるんですよ。まあ、人間付き合いですよね。人間付き合いになれば言いたいことも言えるし、向こうも嫌なことがあったら言ってくれるし、そういう関係性を繰り返すことが大事なんじゃないかと思います。
__KPIの設定について教えてください。また、長くオウンドメディアを盛り上げていく上で重要視しているところはどこですか?
越井氏(楽天)
越井氏(楽天) :それどこは、これまでの楽天市場になかったメディアなので、即時的な売上げではなく「どんな価値付けをしたら周囲に認めてもらえるか」について常に考えています。メディアには「成長していくステップがある」と思っているので、まずは見てもらってナンボ、いろんな人に面白いと言ってもらってナンボということで、今はその土台を作っているところです。その上で、オウンドメディアを続けていくために経営陣への説得材料として、KPIなどの定量的なデータを出したり、さまざまな場面で成果をプレゼンテーションすることで「社内にファンを作る」という活動をしています。
岑(はてな) :もちろんPVやUUが伸びることは嬉しいですが、はてながコンテンツを作るときに意識しているのは「はてなブックマークで書かれるコメント」です。KPIと言うか分からないですが、コメントでいい反応があるかどうかという定性的なところを気にかけています。例えばFacebookで4万人にシェアされれば嬉しいですが、一方ではてなのユーザーさん10人に「いい!」「面白い」とコメントされる価値もあると思っています。そういう定性的な部分を大切にしたいということは、藤村さんも昔サイボウズ式でおっしゃっていましたよね。
藤村氏(サイボウズ) :そうですね。私の話をすると、まずオウンドメディアをやるときって目的は2つに分かれると考えています。売上を担保していくような、いわゆるマーケティング施策としてのオウンドメディア。もう1つは長期的な視点に立って企業の価値を高めていくブランドジャーナリズムとしてのオウンドメディア。この2軸があると思っています。なので、まずは皆さんのメディアがどういう目的かというところですよね。
サイボウズ式の場合は後者です。企業の価値を高めていくための長期的な施策としてオウンドメディアを選択したという流れがあります。ぶっちゃけKPIって何よ? と言われると、あまり設定していないというのが現状です。web解析ツールでとれる数値はいろいろあります。ただ、それでとれる数字がブランド価値にどう貢献するかを、ロジックを立てて1つに結び付けるのは難しいと思っています。
ブランディングの目的は「企業の競争力の向上」です。企業の競争力は売上の増加とか、社内の士気増加とか、採用活動とか……さまざまな要因が交わって向上していくと考えています。それに対して、サイボウズ式というオウンドメディアの他にもいろんな施策を同時並行しながら進めている状態です。なので、あまりサイボウズ式のPVひとつにこだわらず、ブランディング活動全体でどういう成果を上げたのか、というところを見ていくようにしています。
要は「定量ではなく定性をとる」と。具体的には「働きがいのある会社にランクインした」とか、「ダイバーシティ経営企業100選に選ばれた」「サイボウズ式を見て新卒採用に応募してきてくれた」というあたりですね。
__オウンドメディアを運営するにあたり、社内との折衝はどのように進めましたか?
藤村氏(サイボウズ) :楽天さんにお聞きしたかったのですが、いわゆる経営層が認めたのはどういうところなのか、お聞かせいただければと思います。
山野氏(楽天) :実は社内プレゼンテーションではお金の話とか儲けの話は一切していないんです。どういう層にアプローチできたのか、どこからその層を獲得できたのか、集客の方法としてオウンドメディアが響いたという感じです。
KPIを考えていく上で流通(売上)とvisitという2軸があって、楽天市場はそのvisitの施策が弱かったんですよね。なので、儲けが出たという感じで「interesting!」と言っているのではなくて「新しい集客の経路が作れたじゃん!」というニュアンスなのかと思います。将来の売上を思うときに、会社は新規のUUを毎年どのくらい積み上げられるかを重要視しています。どれだけシェアを取っていけるかという点でオウンドメディアは価値があるなと。
とはいえ、社内で折衝するときはやっぱり利益の話をされるんです。なので、第一部で語ったような「1人の新規ユーザーを連れてくると流通(売上)はいくら増えるのか」というロジックを自分たちで立てて「このプロジェクトはこういう収益を生んでいます」ということを人にレポートできる形にしなくてはいけませんね。
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いかがでしたか? 編集者として必要なスキルやオウンドメディアにかける思い、そして運営後の効果の測り方など、現場で生かせる話をお聞きすることができました。オウンドメディアを立ち上げようと考えている方だけでなく、すでに運営している方にも参考になる内容でした。
はてなでは、今後もこのようなセミナーを企画していく予定です。オウンドメディア構築について興味がある企業様は、お気軽にお問い合わせください。
参考リンク
hatenablog.com
hatenacorp.jp
business.hatenastaff.com]
hatenacorp.jp
business.hatenastaff.com
business.hatenastaff.com
登壇者紹介(登壇順)
登壇:楽天株式会社 楽天市場事業 編成第一部 副部長 山野明登氏
1978年大阪府生まれ。2000年大学卒業後、出版社の株式会社扶桑社に入社。2年間の広告営業を経て雑誌・書籍編集者として6年間キャリアを積む。2008年2月より楽天株式会社に入社。7年間楽天市場のWebディレクターを経験し、現在は副部長。
登壇:楽天株式会社 楽天市場事業 編成第一部 メディアプランニング第二グループ サブマネージャー 越井大志氏
大学卒業後、情報系出版社を経て2008年9月に楽天株式会社に中途入社。楽天市場のWebディレクター、Webプロデューサーを経て、現在はクリスマス特集などのシーズンイベントと、新設されたキュレーションコンテンツを担当するチームのマネージメントを行っている。
登壇:株式会社はてな ディレクター 岑康貴 id:minesweeper96
2006年、アイティメディア株式会社に入社し、IT系Webメディアの広告営業、編集記者に従事。2011年より現職。はてなニュースで編集と広告企画を担当した後、2015年に「村上さんのところ 村上春樹期間限定公式サイト」(運営:新潮社)のディレクションを担当。現在はブログサービス「はてなブログ」とオウンドメディア構築CMS「はてなブログMedia」のディレクターを兼任。楽天株式会社のオウンドメディア「それ どこで買ったの?」をはてなブログMediaで構築し、運営にも携わる。
モデレーター:サイボウズ株式会社 コーポレートブランディング部 サイボウズ式 編集長 藤村能光氏 id:saicolobe
Webメディアの編集記者としてキャリアをスタート。その後、サイボウズ株式会社で無料グループウェア「サイボウズLive」のマーケティングを担当。自社メディア「サイボウズ式」の立ち上げに参画し、2015年1月より編集長を務める。現在、株式会社 講談社「現代ビジネス」と立ち上げたブランデッドメディア「ぼくらのメディアはどこにある」を通じて、メディアの可能性を模索中。
登壇:株式会社バーグハンバーグバーグ メディア事業部・部長 徳谷柿次郎氏 id:kakijiro
ぴあ株式会社との共同メディア「オモトピア」、株式会社ぐるなび「みんなのごはん」などのコンテンツ制作に従事。最近は株式会社アイデムのオウンドメディア「どこでも地元メディア『ジモコロ』」の企画・立案をし、編集長として全国を飛び回っている。驚くほど胃腸が弱い。