顧客接点と顧客体験を整理する際にはカスタマージャーニーマップとペルソナが役立ちます。
今回は、企業のオウンドメディアを例にあげて、戦略策定のためのカスタマージャーニーとペルソナの概念、活用目的について解説します。
どんな顧客とどんな接点でコミュニケーションをして、どんな体験を提供できているかを整理できると、いま自分が関わっているプロジェクトがマーケティング施策全体のなかでどんな役割を持つのかもしっかり理解できるはずです。
カスタマージャーニーとは
自社と顧客の接点はどれくらいあるでしょうか。それぞれの接点では、どんな情報を発信し、顧客にどんな体験を提供できているでしょうか。BtoCであれば、実店舗、チラシ、ダイレクトメールなどオフラインでの接点に加え、Webサイト、ECサイト、アプリ、SNS、Eメール、コミュニティサイト、そしてオウンドメディアなど、オンラインでもいくつもの接点を持つことができます。
カスタマージャーニーとは、さまざまな体験を通して顧客が製品やサービスの利用や購入を決定するまでのプロセスを旅(ジャーニー)にたとえた言葉です。顧客体験としての一連のジャーニーを顧客と企業の接点ごとに示すとともに、その時の顧客の心理、感情、望ましい結果、ペインポイント(悩み、課題)などを時系列で可視化したものがカスタマージャーニーマップです。
書籍「マッピングエクスペリエンス」では、カスタマージャーニーマップについて次のように説明しています。
すばらしい顧客体験の創出の肝は「個々のタッチポイントの最適化」ではなく、むしろ「そうした多数のタッチポイントの関係を正確に把握して調整し、一貫性のある全体をどう作り出すか」です。それに役立つのがCJM(Customer Journey Map)であり、CJMはタッチポイントを可視化して、より効率よく管理するための戦略ツールなのです。
(引用:書籍「マッピングエクスペリエンス」)
カスタマージャーニーマップの書き方や、そこに盛り込む情報は、作成目的や用途に応じて柔軟に変更できますが、一般的に横軸で時間の経過、縦軸で接点ごとの顧客の体験や感情、企業が提供できる情報や価値を示します。
顧客体験のジャーニーの中で、どこを切り取るかによってカスタマージャーニーの内容も期間も変わってきます。BtoBで「認知→検討→問い合わせ→比較→稟議→契約」までに数か月以上にわたるジャーニーを想定するケースもあれば、BtoCで「商品購入後のキャンペーンの応募」に焦点を当てれば、数時間から1日程度のジャーニーを想定するケースもあります。
カスタマージャーニーマップの例:
Heart of the Customer:How the YMCA Used Journey Mapping to Boost Member Retention
How the YMCA Used Journey Mapping to Boost Member Retention | Heart of the Customerより
カスタマージャーニーマップを作成するメリット
カスタマージャーニーマップが活用されるようになったのは比較的最近で、2000年代に入ってからです。カスタマージャーニーマップの提唱者の一人である、ブルース・テムキンは、カスタマージャーニーマップの重要性について次のように述べています。
企業には顧客の真のニーズを理解するためのツールと手法が必要だ。その意味できめめて重要なツールのひとつが「カスタマージャーニーマップ」と呼ばれるツールで・・・これを正しく活用すれば、企業の視点をインサイドアウトからアウトサイドアウトに転換できる
(引用:書籍「マッピングエクスペリエンス」)
カスタマージャーニーマップを描くことで、顧客の心理の変化やニーズを理解できるようになり、そこから企業が顧客接点でどんな価値提供ができるかを考えられるようになります。
さらに具体的にカスタマージャーニーが必要な理由について「はじめてのカスタマージャーニーマップワークショップ」(翔泳社)を参考に整理してみました。
1. 顧客が企業に期待することが変わった
顧客が企業から特別な個人として扱われ、デバイスや接点が変わっても一貫性のあるアプローチをされたいと期待するようになりました。カスタマージャーニーマップを使って、この変化に対応するための仮説を構築できます。
2. 顧客の期待に答えるヒントを見つけられる
カスタマージャーニーマップを整理することで、顧客の期待に答えるためのヒントを見つけられます。
3. 顧客を理解するスタンスが身につく
マップを作成する際に、様々な接点での顧客の行動や感情に想像を働かせることは、関係者が常日頃から顧客を理解しようとする意識を養うことにつながります。
4. 社内の共通言語が生まれる
カスタマージャーニーマップにより、顧客の行動や感情が可視化されるので、それを共通言語として社内での会話が可能になります。
5. 顧客視点に立った打ち手を考案できる
顧客の感情が下がる接点、行動が進まないポイントを発見し、よりよい顧客体験を提供するための打ち手を考えられるようになります。
オウンドメディアのためのカスタマージャーニー
カスタマージャーニーマップの作成において、一連の顧客体験のスタートとゴールを何に設定するかは目的によってさまざまです。
オウンドメディアの運用においては、まずは商品やサービス全体のカスタマージャーマップから、オウンドメディアのコンテンツをどう活用するか考えていくことが理想的です。整理されたカスタマージャーニーマップを確認することで、顧客への期待に対しどの接点でどのような情報や価値を提供できるかを認識し、必要なコンテンツを準備することができます。可視化された共通認識があることで、コンテンツ制作に関わるチームの方向性が定まり、戦略に沿った精度の高いコンテンツ企画が継続できることになります。また、必要なコンテンツとそうでないコンテンツが明確になることで、優先度が定まり、コンテンツ制作の効率化にも役立ちます。
ペルソナとは
カスタマージャーニーマップにおいては、具体的な顧客像を持ってその顧客がどう行動するか、どう感情が動くかを考えます。ターゲットとなる顧客は「20−30代女性」のような広いものではなく、ターゲットとなるユーザーの具体的な特徴を持つ人物像です。
具体的な人物像として有効なツールがペルソナです。ペルソナはカスタマージャーニーマップの作成だけでなく、戦略策定においてもユーザー像を明確にし、チーム内で共通認識を持つためにも必要です。
ペルソナは、以下のような内容を具体的に落とし込んでいきます。(参考「起業の科学 スタートアップサイエンス」)
- 基本情報(氏名、性別、年齢、居住地、家族構成、職業、年収)
- 情報収集手段、タイミング、頻度、利用デバイス
- 興味、関心、趣味
- 日常の行動
- 目標
- ペインポイント、課題
BtoBの場合は、上記に加えて以下のような内容も落とし込みます。
- 職業
- 会社情報(業界、企業規模、事業内容、所属部署、起案者/決裁者など)
- 仕事をするうえでのミッションとゴール
- 業務上の課題
オウンドメディアのペルソナの作り方とポイント
オウンドメディアのペルソナを作る場合は、以下のようなデータや情報を参考に具体化していくことをおすすめします。
- 各種統計データ(官公庁、民間調査会社などのデータ)
- 自社のユーザーへのアンケート調査、ヒアリング調査、行動観察調査
- 顧客と直接接する営業、接客担当者などへのヒアリング
- アクセス解析ログ
- SNSの発信内容や利用状況
ペルソナを作成する過程で収集した情報は、カスタマージャーニーマップを作成するうえでも参考になる情報となります。
はてなでは、オウンドメディアを始める際のペルソナ作成に、以下のようなフォーマットを活用しています。②の項目は企業や目的によって変更しますが、①の課題整理は必ず実施します。
オウンドメディアで解決したい企業課題を考える際には、企業側の視点の課題を考えるのではなく、顧客(ターゲット)の視点で見た課題を考えることが重要です。オウンドメディアによって、顧客のどんな課題が解決されるかを考えるところから始めましょう。そこから、ペルソナ作成に進むことをおすすめしています。
実際のデータに基づいた整理やインタビュー、チーム内でのワークショップなどを実施して作成したペルソナは1ページ程度で情報をまとめます。メンバーで共有し、オウンドメディア戦略策定に限らず、コンテンツ企画、制作の段階でも意識するようにしましょう。
ペルソナ作成の具体的な方法については、いくつもの本でさまざまな手法が紹介されています。専門的なものから簡単に実施できるものまでありますので、自社に合うやり方を探してみるか、コンサルタントに相談するなどで作成してみましょう。
はてなでも定期的に開催する「オウンドメディアの戦略設計ワークショップ」を通じて、オウンドメディアのペルソナづくりをご説明しています。ご興味のあるご担当者様はぜひご相談ください。
カスタマージャーニーマップの作り方
カスタマージャーニーマップを作るときは、できるだけ関係者が集まってワークショップ形式でディスカッションしながら、考えを深めていく方法があります。また、複数のメンバーがそれぞれカスタマージャーニーマップを作成して、それをチームで共有して議論する方法もあります。
書籍「はじめてのカスタマージャーニーマップワークショップ」(翔泳社)では、カスタマージャーニーマップ作成の流れについて、入力、出力という切り口で分けて、次のような流れを提唱しています。
入力
- Step1:テーマを決める
- 取り上げる商品・サービス、ジャーニーのスタートとゴール、期間を設定する
- Step2:ペルソナを設定する
- 対象顧客像を明らかにする
出力・顧客視点
- Step3:行動を洗い出す
- 顧客がジャーニーのスタートからゴールまでの間にとる行動を明確にする
- Step4:行動をステージに分ける
- 明確になったさまざまな行動を分類し、グルーピングする
- Step5:顧客接点を明確にする
- 顧客が利用する店舗やアプリ、Webサイトなどの接点を洗い出す
- Step6:感情の起伏を想像する
- 「うれしい」「困った」「いいね」など、顧客の気持ちの変化をつかむ
出力・企業視点
- Step7:対応策を考える
- マップ全体を俯瞰して、課題や改善可能なポイントを検討する
- Step8:視点を変えてアイデアを追加する
- カスタマージャーニー全体を違った角度から見直すことで新たな施策のアイデアを見出す
Step6の感情の起伏を考える際には、顧客のペインポイント、課題に注目して、それを書き出しておくようにしましょう。
カスタマージャーニーの活用方法
カスタマージャーニーマップを作成したら、まずはその情報を社内やチームメンバーに共有し、顧客視点でプロセスを捉える考え方を浸透させましょう。さらに、顧客の課題、感情が下がる部分に注目し、どのような打ち手があるのかを考えていきます。顧客の課題をどのように解決できるかを考え、その施策を立案、実行していきます。カスタマージャーニーマップが施策立案の土台になり、顧客の感情に寄り添いながら対策していくことになります。
まとめ:顧客理解を深め、よりよい情報発信のために
今回は、カスタマージャーニーマップとペルソナについて取り上げました。この2つを使うことは、顧客理解を深め、顧客視点からオウンドメディア戦略を考えるようになることです。またカスタマージャーニーマップ、ペルソナは、関係者の共通認識となり、共通のゴールを目指すためにも役立ちます。
注意したいのが、カスタマージャーニーマップもペルソナも、企業にとって都合のよい視点だけを盛り込まないことです。カスタマージャーニーマップを作るときには、動き自体にリアルを求めるよりも、なるべく多くの接点を設定することもポイントとされていますので、参考にしてみてください。
ペルソナもカスタマージャーニーマップも、データを元に仮説を構築して作成しますが、作成した後は実際にユーザーがどう動いているのか、実際のユーザー像と大きくずれていないか、といったことに注意して、定期的にアップデートしていきましょう。
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