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SEO専門家 渡辺隆広氏に訊く「コンテンツデザインの思考法」

はてなでは、オウンドメディアのトータル支援「はてな MediaSuite」やオウンドメディアCMS「はてなブログMedia」の導入企業様にご案内するためのクローズドイベントを定期開催しています。

本記事では、先日開催したクローズド勉強会にてSEO専門家の渡辺隆広氏にお話しいただいた 「コンテンツデザイン」の思考法で学ぶ、有用なコンテンツの作り方 の内容の一部をご紹介します。

渡辺 隆広(わたなべ たかひろ)氏 プロフィール  

渡辺 隆広氏 プロフィール写真

SEO専門家。1997年に日本で初めてSEO事業を開始して以来、国内外のさまざまな企業のSEO推進を支援。エンタープライズSEO、コンテンツマーケティング、UX/UIを得意とする。業界歴25年の第一人者として多くの執筆・講演活動で活躍中。主な著書に「検索にガンガンヒットさせるSEOの教科書」「Googleコアアップデートの読み解き方」など。

個人サイト:https://www.sem-r.com/

SEOとコンテンツマーケティングの関係

「SEOとコンテンツマーケティングは相互に影響し合う近しい領域にありますが、別の手法です。事業目的を達成するためにSEOやコンテンツマーケティングに取り組む場合は、各々に目的・目標・戦略が必要です。それが適切に実行・運用されることで、はじめて相乗効果が生まれます。効果的なSEOは、コンテンツをより多くのユーザーに届ける助けになります。効果的なコンテンツマーケティングは、ウェブサイトの権威や評判を向上させ、検索結果での露出度を高めます。」と渡辺氏は説明します。

「SEOとコンテンツマーケティングの関係」の説明図

しかし実際は、SEOとコンテンツマーケティングの目的と手段が混同され、コンテンツマーケティングをGoogle対策のためのコンテンツ戦略、つまり「SEOのためのコンテンツ」と捉えている企業が少なくないと言います。これは日本だけでなく世界中で起きている問題で、次に述べるような弊害が表面化しています。

SEOを目的にコンテンツマーケティングに取り組むことの問題

渡辺氏は、マーケティング活動の一貫としてではなくSEOを目的にコンテンツを作りつづけても「何の成果も生まない」と言います。SEOを目的にした時点で、コンテンツを届ける相手である人間の存在が抜け落ちるからです。

コンテンツマーケティングをSEOの延長・目的に捉えて活動することは、以下のような問題を生みやすいと指摘します。

  • コンテンツマーケティングがSEOのための手段になると、コンテンツマーケティングの有効性を推し測るには不適切なKPI、たとえば検索順位や検索流入、対策キーワード数や文字数といったKPIが設定されてしまう。
  • その結果、コンテンツマーケティングの費用対効果が短期的なSEOの成果で考えられるようになり、コンテンツの質や有用性よりも、コンテンツ制作の効率性や生産量を重視するインセンティブが働くようになる。
  • 組織内でこのインセンティブが生まれると、ウォンツが顕在化したキーワードデータを用いて網羅的かつ凡庸で平均的なコンテンツを大量生産するなど、検索アルゴリズムへの最適化と作業効率の最大化のみを追求した小手先のテクニックによって目的を達成するようになる。その結果、事業成長や売上、リード獲得に貢献するコンテンツは生まれず、文字数が多いだけのページも評価されず、結果として何ら成果をもたらさない。

コンテンツマーケティングでは、コンテンツによってユーザーに何らかの働きかけをすることを通じて、ブランドの認知や好意度、関係性の構築、商品やサービスへの理解促進、問い合わせや購読、お申し込み・売上などに貢献することを目的とします。したがってKPIは、たとえばUGC(またはSNS)でのブランド指名数、SNSのインタラクション、特定コンテンツの間接または直接的な貢献度、リード獲得などを設定します。こうした指標を設定すれば、ユーザーとのさまざまなタッチポイントにおいて、そのときに触れるコンテンツの品質や形式、届ける情報やユーザー体験が重視されるようになります。

しかしながら、SEOをコンテンツマーケティングの目的にすると意識が検索アルゴリズムに集中し、購買行動の仮説をもとにユーザーのインサイトを考えることや、多様なタッチポイントを想定すること、コンテンツの価値や品質に時間や労力をかけることなどに対してインセンティブが生まれなくなり、その結果、コンテンツがないがしろになってしまうケースがあるという問題を渡辺氏は指摘します。

「SEOとコンテンツマーケティングの関係」の説明図

こういった状況に陥らないためにも、コンテンツマーケティングに取り組む担当者は、まずSEOと切り離したコンテンツマーケティングの目的を明確にしておく必要がある、と渡辺氏は説明します。

メディアの目的を明文化する

渡辺氏は「オウンドメディアを使ったコンテンツマーケティングに取り組む担当者でも(以下のような)メディアの目的が即答できないケースがある」と言います。やってみると「意外とできてない」と気づくケースが多いということで、ぜひこれを埋めてみるように参加者に勧めました。

「誰に向けて」「何を提供する」「どうしてほしいか」の3項目について「ステートメント」と「詳細」を記入してみましょう

オウンドメディアの運営において目的を定義し明文化することのメリットと、明文化の具体例として、渡辺氏のサイトである「SEMサーチ」の目的について説明しました。

渡辺氏は「明文化された目的がないことで、本来そのメディアが取り上げる必要のないコンテンツが掲載され、メディア全体の一貫性が失われてしまう」という具体的な事例を共有し「明文化はこれを防ぐ役割を果たす」と言います。

「ユーザーの役に立つコンテンツ」とは

コンテンツ制作は、自社で行うケースのほかにも、メディアやパートナー企業、ライターに依頼することがあります。

その様な際に、先ほどの「目的」の明文化に加えて、社内外で共有できるコンテンツの評価基準を設定しておくことが重要であると渡辺氏は説明します。

「ユーザーの役に立つコンテンツを作りましょう。とよく言いますが、これは、具体的にどのように作成するということだと考えますか? 正解があるわけではないのですが、私は以下のように考えます」と以下2つの回答例を挙げました。

「大切なのは、どんな人にも役立つコンテンツを作ろうとは思わないことです。百科事典のようなものを積極的に読む人は少ないと思いますが、それと同じように、あらゆる人の役に立つものというのは、結果として誰にも刺さらないということがよくあります。そのため、誰にとって役に立つコンテンツかを決める必要があります。回答例aは、特定のユーザーが置かれた状況を細かく描写して、困りごとが解決したり、欲しいものが見つかるなど、何らかの状況を進展させることのできる情報を提示することが、ユーザーの役に立つコンテンツであるということを意味します。回答例bの場合は、自分の知っている誰かを想像して、その人に絶対に刺さる・嬉しいコンテンツであるというものです。自分の知っている誰かのような人は、よほどニッチ出ない限りは似た人がいるものですので、その人にとって有益なものになります。」と渡辺氏は言います。

文脈がコンテンツの良し悪しを規定する

先ほどの回答例aにあった「特定のユーザーが置かれた状況」と「その状況を進展させられる可能性のある情報」というのはどういったことでしょうか。

渡辺氏は、同じコンテンツでも「状況」が異なるとコンテンツが役に立たなくなってしまうことの例として、以下2つのスライドで説明しました。


(※ 資料内のマップは 羽田空港旅客ターミナル フロアガイドより引用)

空港に行き来する人たちにとって、それぞれの行き先にたどり着く方法が何なのかがわかる空港の案内板は便利なもので、特に問題はありません。


(※ 資料内のマップは 羽田空港旅客ターミナル フロアガイドより引用)


しかし、これが「スターフライヤーの搭乗口を案内するもの」だとすると、目的地がわかりづらく、不要な情報が多いため、役立つ親切なコンテンツとは言えません。

このような「特定のユーザーの状況」を考慮し、「その状況を進展させられる可能性のある」役に立つコンテンツを制作するためのフレームワークが「コンテンツデザイン」です。

コンテンツデザインとは

渡辺氏によるコンテンツデザインの定義は「ユーザーがタスクを完遂するために必要充分な情報を、最適な形に整えて提供すること」です。つまり、単に目的やニーズにとどまらず、ユーザーが置かれた状況や文脈に合わせて、適切なプレゼンテーション方法や文章表現、情報量を選択して提供することを指します。

コンテンツデザインのメリットは以下の通りです。

コンテンツデザインのメリット

具体的な進め方

渡辺氏は「簡単に手順だけ」として、以下の4つのフローを説明しました。

[コンテンツデザインの手順(簡易版)

「マンションを購入して、オプション会に参加する人」に役立つコンテンツ

例として「マンションを購入して、オプション会に参加する人に役立つコンテンツ」を考えてみます。

まずは「1」のステップの通り、マンションを購入してオプション会に参加するとしたら、どんなことを知りたいかを想像して、いろいろなことを書き込んでみます。その後「1」の仮説をベースに、自分で体験してみたり、信頼性があると推定される情報を参照するなどして「2」のリサーチを行い、「3」に反映させます。

「1で作ったものと3で再作成したものが大きく異なれば、自分がその対象となるターゲットとかけ離れた考えを持っていることが自覚できます。乖離が大きい場合は自分の思い込みは捨てなくてはいけません。逆に類似している場合は、自分とターゲットの考えに比較的偏りがないものと判断できます。主観を排除して、客観的な情報や信頼性の高いデータによってジャーニーの精度を上げていくプロセスが3になります。それを踏まえて、オプション会に参加する多くの人が直面しそうな課題や悩みの種を書き込んでいくことで文脈が定義され、消費が誘発できるポイントを認識することができます。」と渡辺氏は説明します。

別の例として「猫がぐたっとしてる、という状況に置かれた飼い主」のケースを挙げました。


上記のように、「病院に連れて行くべきか、このまま様子を見ておけばいいかをすぐに判断したい」という状況に置かれているターゲットの文脈を定義し、必要な情報と、最適な形について考えていくと、コンテンツのデザインを決めることができるようになります。

検索キーワードからユーザーの意図を探ることはできない

渡辺氏は「コンテンツにとって文脈はとても重要なものです。一部のSEO会社が検索キーワードからユーザーの意図を探ってコンテンツを作りましょうと提案しているケースがあります。実際にコンテンツ制作の際に検索キーワードを見ている方も多いのではないかと思います。検索キーワードからコンテンツを考える人は、Google検索の機械学習の結果を見ているだけで、ユーザーの置かれた状況である文脈を詳細に考えることを放棄しています。」と説明します。

コンテンツを作る際に検索キーワードデータを参照すること自体は否定しないものの、ただ文字列を眺めてもユーザーの意図はわからず、狭い考えでしか考えられなくなるため、検索キーワードを起点にコンテンツを作ることはやめるべきであるという渡辺氏の主張です。コンテンツデザインの手順「2」のリサーチでも、使用しないことを推奨しています。

まとめ

最後に本日のおさらいとして、渡辺氏は以下のポイントを改めて強調しました。

  • コンテンツマーケティングの目的をSEOにしないこと
      • 事業を成長させる手段としてSEOやコンテンツマーケティングといった施策がある
  • 「文脈」を意識すること
    • 想定ユーザーがおかれた状況を具体的に描写することで、必然的にコンテンツの要件を定めることができる

* *

コンテンツデザインというフレームワーク(論理的思考の手順)の詳細は、コンテンツマーケティングをテーマにした渡辺氏の著書 『脱キーワード思考のコンテンツマーケティング[2022年版]』でも触れられていますので、参考にしてみてください。

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